座談会 スピオルト5年間の軌跡と日本のCOPD診療の進化(前編)

日時:2021年3月3日(水)
場所:オンライン会議形式
 

柴田 陽光 先生

 

福島県立医科大学医学部呼吸器内科学講座 主任教授
柴田 陽光 先生(司会)
 

 

 

室 繁郎 先生

 

奈良県立医科大学医学部呼吸器内科学講座 教授
室 繁郎 先生

 


 

近藤 りえ子 先生

 

藤田医科大学医学部 客員教授/近藤内科医院 院長
近藤 りえ子 先生
(ご発言順)

 

 

『COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン 第5版 2018』(以下、GL)1)では、疾患の進行抑制や生命予後の改善に繋がる管理目標として、現状の改善(症状及びQOLの改善、運動耐容能と身体活動性を向上及び維持)と将来のリスクの低減(増悪の予防、全身併存症及び肺合併症の予防・診断・治療)が掲げられている。長時間作用性抗コリン薬(LAMA)/長時間作用性β₂刺激薬(LABA)配合剤であるスピオルト®(チオトロピウム+オロダテロール配合剤5μg/5μg)は発売以来、その達成のために適正使用を推進してきた。そこで今回、福島県立医科大学の柴田陽光先生の司会進行で、奈良県立医科大学の室繁郎先生、近藤内科医院の近藤りえ子先生をお迎えし、スピオルト®レスピマット®(ソフトミスト吸入器)の5年間の軌跡を振り返りつつ、COPD診療の進化やwithコロナ時代の診療のあり方についてご討議いただいた。

 

スピオルト®発売から5年間の軌跡

柴田(司会):スピオルト®の有効性、安全性については、包括的な臨床プログラム『TOviTO』として実施されたTONADO試験2)、VIVACITO試験3)、MORACTO試験4)、TORRACTO試験5)、OTEMTO試験6)、ENERGITO試験7)、PHYSACTO試験8)、DYNAGITO試験9)により検討されてきました。日本人集団でも、TONADO試験10)は呼吸機能、DYNAGITO試験11)は増悪、VESUTO試験12)は身体活動性を主要評価項目とした臨床試験が実施され、スピオルト®の有用性が確認されています。このことを踏まえ、まず室先生に臨床エビデンスの観点から2016年発売後5年間のスピオルト®の軌跡を振り返っていただきます。

■息切れ、QOLの改善に関するエビデンス
:スピオルト®は、TONADO試験2)及び日本人集団を対象にしたサブグループ解析であるTONADO-J試験10)13)において、LAMAであるスピリーバ®(チオトロピウム5μg)に比べ、呼吸機能[1秒量(FEV1)AUC0-3h、トラフFEV1](p<0.0001)や息切れ(TDI総スコア)(p<0.05)を有意に改善しました(混合効果反復測定モデル)。QOLを示すSGRQ総スコアも、全体集団、日本人集団ともに、スピオルト®はスピリーバ®より有意な改善を示しました(p<0.05、混合効果反復測定モデル)10)13)。全体集団のスピオルト®とスピリーバ®では、息切れやQOLの指標においてMCID(臨床的に意味のある最小の差)を超える改善がみられたのに対し、日本人集団ではスピオルト®のみでした10)13)
 気管支拡張薬単剤治療中のCOPD患者において、呼吸機能(FEV1)が悪化するほど、息切れ[修正MRC(mMRC)]が強くなりますが、%FEV1≧80%でもmMRCグレード2や3の息切れを少なからず呈すること14)が報告されています。つまり、COPD診療では、単剤治療をしても息切れが残っている場合、LAMA/LABA配合剤を試みるなど治療のステップアップを図ることは臨床的に意義のあることだと考えられます。

■運動耐容能・身体活動性に関するエビデンス
:COPD患者では、労作時の息切れがあると、それを避けるために立ち歩くことが少なくなり、座位行動(Sedentary)時間(1.5METs以下)が長くなって、身体活動性が減少してくること15)が指摘されています。これはダウンワードスパイラルと呼ばれ、寝たきり、フレイル、予後不良に繋がると示唆されています15)。実際、COPD患者では息切れが強くなるほど、1日当たりの歩行時間が厚生労働省の目標より大きく下回ってくることが明らかになっています16)。また、COPD患者ではSedentary時間が8.5時間より長いと予後が悪くなることも報告されています17)。そのため、COPD診療では、身体活動性を高めることが1つの目標とされ、薬物療法と運動療法が介入の2大柱になっています。
 PHYSACTO試験8)において、一定負荷後のシャトルウォーキング試験中の運動耐久時間は、プラセボと比較して、スピリーバ®では有意な延長がみられなかったのに対して、スピオルト®では29.9%、スピオルト®+運動トレーニングでは45.8%と有意に延長し(共分散分析モデルによる解析)(図1)、運動耐久時間の延長という点でも、スピオルト®が有用であることが検証されました8)

運動耐容能・身体活動性に関するエビデンス

 

また、過去12ヵ月以内に吸入ステロイド(ICS)、LABA、及び/またはLAMA未治療の日本人COPD患者を対象にしたSCOPE試験18)において、スピオルト®はスピリーバ®に比べ、呼吸機能(FEV1変化量、p=0.002、Welchのt検定)や息切れ(TDI総スコア、p=0.02、Wilcoxonの順位和検定)を有意に改善しただけでなく、1.0~1.5METsの時間/日を38.7分減少させることが示されました。多変量解析から、Sedentary時間を減らすためにはスピオルト®による介入そのものが良いことも明らかにされています18)

 

日本におけるCOPD 診療の進化

■ICSはCOPDと喘息の合併病態(ACO)の場合に使うべき
柴田:日本呼吸器学会から『喘息とCOPDのオーバーラップ診断と治療の手引き』(以下、手引き)19)が出版されました。第5版のGL1)でもACOの概念が強調され、COPD患者の15~20%と考えられるACO20)21)22)に対してICSを使うことが推奨されつつあります(図2)。

ICSはCOPDと喘息の合併病態(ACO)の場合に使うべき

 

近藤:ICSの使用においては、ACOであるということをきちんと判断してから使っています。また、使用する場合も、治療効果を確認しながら期間を決定しています。
室:診療においては、手引き19)に示された「ACO診断基準における喘息の特徴」を念頭におき、問診で喘息の既往や、変動性あるいは発作性の呼吸器症状、通年性アレルギー性鼻炎の合併、血液検査で末梢血好酸球数やIgE値を確認するなどして、ICSが適応となるACOの見極めに努めています。

 

■息切れがあればLAMA/LABA配合剤を
柴田:第5版のGL1)では、重症度が軽度から中等度、重度と進行するに伴い、個々の症例に応じてLAMAあるいはLABAの単剤療法からLAMA/LABA配合剤へステップアップしていくこと(斜線)になっていますが(図2)、単剤で不十分な場合、LAMA、LABA併用(LAMA/LABA配合薬の使用も可)とするとなっています。私は、mMRCが2、あるいはCOPD評価テスト(CAT)が10点であれば、それなりの息切れがあると考え、LAMA/LABA配合剤を最初からでも使っています。2020年に発表された米国胸部学会(ATS)のCOPDガイドライン23)でも、息切れのある患者に対してLAMA/LABA配合剤が強く推奨されていましたので、息切れがあればLAMA/LABA配合剤を適応しても良いと考えています。
室:呼吸機能障害及び息切れが軽微な場合は、LAMA単剤で始めることがありますが、「薬の効き目を実感できない」「もっと楽になりたい」という患者にはLAMA/LABA配合剤にステップアップします。呼吸機能より息切れを重視してLAMA/LABA配合剤を使用することが多く、mMRCが2以上の症例では、LAMA/LABA配合剤から治療開始することも多いです。
(後編へ続く)
 

禁忌を含む使用上の注意はスピオルト®、スピリーバ®の各添付文書をご参照ください。
スピオルト®の有効成分であるオロダテロール単剤は国内未承認です。
 

スピオルト®の【効能・効果】
慢性閉塞性肺疾患(慢性気管支炎、肺気腫)の気道閉塞性障害に基づく諸症状の緩解(長時間作用性吸入抗コリン剤及び長時間作用性吸入β2刺激剤の併用が必要な場合)

<効能・効果に関連する使用上の注意>
本剤は慢性閉塞性肺疾患(COPD:慢性気管支炎、肺気腫)の維持療法に用いること。本剤は急性症状の軽減を目的とした薬剤ではない。

スピオルト®の【用法・用量】
通常、成人には1回2吸入(チオトロピウムとして5μg及びオロダテロールとして5μg)を1日1回吸入投与する。

<用法・用量に関連する使用上の注意>
本剤は1日1回、できるだけ同じ時間帯に吸入すること。患者に対し、本剤の過度の使用により不整脈、心停止等の重篤な副作用が発現する危険性があることを理解させ、1日1回を超えて投与しないよう注意を与えること。(「重要な基本的注意」、「過量投与」の項参照)

 

【引用】

  1. 日本呼吸器学会 COPDガイドライン第5版作成委員会(編). COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン 第5版 2018. メディカルレビュー社, 東京, 2018.
  2. Buhl R, et al. Eur Respir J 2015; 45(4): 969-979. *
  3. Beeh KM, et al. Pulm Pharmacol Ther 2015; 32: 53-59. *
  4. O'Donnell DE, et al. Eur Respir J 2017 ; 19; 49(4): 1601348. *
  5. Maltais F, et al. Ther Adv Respir Dis 2018 ; 12: 1753465818755091. *
  6. Singh D, et al. Respir Med 2015; 109(10): 1312-1319. *
  7. Beeh KM, et al. Int J Chron Obstruct Pulmon Dis 2016; 11: 193-205. *
  8. Troosters T, et al. Am J Respir Crit Care Med 2018; 198(8): 1021-1032. *
  9. Calverley PMA, et al. Lancet Respir Med 2018; 6(5): 337-344. *
  10. Ichinose M, et al. Int J Chron Obstruct Pulmon Dis 2016; 11: 2017-2027. *
  11. Ichinose M, et al. Int J Chron Obstruct Pulmon Dis 2018; 13: 2147-2156. *
  12. Ichinose M, et al. Int J Chron Obstruct Pulmon Dis 2018; 13: 1407-1419. *
  13. Sauter W, et al. 承認時評価資料:国際共同COPD患者対象52週間有効性安全性試験(1237.5/6試験併合解析)*
  14. Dransfield MT, et al. Prim Care Respir J. 2011; 20(1): 46-53.
  15. Bourbeau J, et al. BMJ Open 2016; 6(4): e010109.
  16. Hayata A, et al. Int J Chron Obstruct Pulmon Dis. 2016; 11: 2203-2208.
  17. Furlanetto KC, et al. Respir Care 2017; 62(5): 579-587.
  18. Takahashi K, et al. Int J Chron Obstruct Pulmon Dis 2020; 15: 2115-2126. *
  19. 日本呼吸器学会 喘息とCOPDのオーバーラップ(Asthma and COPD Overlap:ACO)診断と治療の手引き2018作成委員会(編). 喘息とCOPDのオーバーラップ(Asthma and COPD Overlap:ACO)診断と治療の手引き2018. メディカルレビュー社, 東京, 2017.
  20. Kurashima K. et al. Int J Chron Obstruct Pulmon Dis. 2016; 11: 479-487.
  21. Kitaguchi Y. et al. Int J Chron Obstruct Pulmon Dis. 2016; 11: 991-997.
  22. Yamauchi Y. et al. Respirology. 2015; 20: 940-946.
  23. Nici L, et al. Am J Respir Crit Care Med 2020; 201(9): e56-e69.

 

*本試験はベーリンガーインゲルハイム社の支援を受けて実施されました。

 

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